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日本におけるうつ病に対する間違った認識
一般的に知られている自律神経系は「交感神経系」「副交感神経系」の2元論モデルがよく知られています。
しかし、定型うつ病の症状を考えるとき、この2元論モデルだと矛盾が生じてしまい、上手く説明がつきませんでした。1996年にイギリスのステファン・ポージェス博士は、ポリヴェーガル理論 (Polyvagal Theory::多重迷走神経理論) を発表し、この矛盾を解決。現在はこのモデルは世界に受け入れられ一般的に利用されています。ところが、日本ではまだ2元論モデルが利用され、うつ病に対する間違った認識、治療法が行われているのが現状です。
発症時の状態(非投薬時)
非定型うつ(軽症) | 定型うつ(重度) | |
日本 | 過眠 | 不眠 |
正しいのは | 不眠 | 過眠 |
日本ではうつ病=不眠の間違ったイメージをもっている人が多い。
うつ病の考え方に対する矛盾とは
一般的に、ストレスがかかると興奮状態となり、交感神経が上昇します。
しかし、定型うつの場合、強いストレスを受けたにもかかわらず、シャットダウンしたかのように倦怠感、強い解離、慢性疲労、過眠といった副交感神経優位の強い症状がでてきます。
また、うつ病に処方される抗うつ薬は、ノルアドレナリン、セロトニンといった交感神経を高める覚醒型の神経伝達物質であるように、ノルアドレナリン、セロトニンが減少した状態、つまり交感神経優位ではない状態です。
なぜ、強いストレスがかかって副交感神経優位の状態になるのかが長年の疑問でした。
その矛盾点を解決させたのが、ポリヴェーガル理論です。
非定型うつ | 定型うつ | |
症状 | 不眠、イライラ、動悸 | 過眠、憂鬱、無気力 |
神経伝達物質 | ノルアドレナリン↑ | ノルアドレナリン↓ セロトニン↓ |
処方される薬 | 抗不安薬・睡眠薬 ノルアドレナリン↓ 副交感神経高める |
抗うつ薬 ノルアドレナリン↑ セロトニン↑ 交感神経高める |
自律神経 | 交感神経優位 | 副交感神経優位 |
日本では、定型うつ病者に抗不安薬、非定型うつ病者に抗うつ薬を処方し症状を悪化させる医師も少なくない。
一般的な自律神経の考え方
では、なぜストレスがかかって副交感神経優位の状態になるのでしょうか?
その前に自律神経の一般的な2元論の考え方から説明します。
人体には多くの神経細胞が配線のように張り巡らされており、いくつかの神経系統が存在します。
なかでも、自律神経系統は身体調整、感情、生命維持(ホメオスタシス)に関わっており、精神疾患と最も深い神経系統になります。
自律神経には、交感神経と副交感神経があり、それぞれ相反する作用があります。
交感神経と副交感神経が作用することで、身体の生命活動のバランスが保たれています。
ストレスと防衛反応
ポリヴェーガル理論を理解するには、まずストレスと防衛反応について知っておく必要があります。
ストレスには、交通事故、強姦、恐怖、驚きといった突発的な「急性ストレス」、機能不全家庭など環境から受ける「慢性ストレス」があります。
これらのストレスに対抗するための防衛反応として、交感神経が過剰に働く「闘争・逃走」、副交感神経が過剰に働く「固まり・麻痺」が起こります。
「闘争・逃走」反応は、 交感神経が高まった状態で、闘うあるいは逃げる、パニックになるといった状態です。「固まり・麻痺」反応は、副交感神経が高まり解離、うつ病、気絶といった状態を引き起します。
交感神経、あるいは副交感神経どちらかに過剰に働いたとき、PTSDあるいは解離性障害を引き起し、行動、感情などのトラウマ症状を引き起します。
ともに自律神経が乱れた状態で、交感神経が優位な状態だと、不安、恐怖が強くなり、全般性不安障害、パニック障害、非定型うつ、フラッシュバック的な症状が生じ、副交感神経が優位になると、定型うつ状態、解離性障害といった症状が起きてきます。
防衛反応:闘争・逃走
交感神経UP
恐怖、不安障害、フラッシュバック(PTSD)
防衛反応:固まり・麻痺
副交感神経UP
うつ病、気絶、解離性障害(離人症・健忘)
ポリヴェーガル理論とは~3つの神経系統からなる理論~
では、ポリヴェーガル理論の説明にいきます。
ポージェス博士 の理論では、これまでの自律神経系の中に「社会神経系」といった新たな概念を持ち込み、3つの神経系によって環境への対応、危機管理システムが構成されている・・と考えていることです。 つまり、2元系を3元系に拡張して考えたのが特徴です。
3つの神経系
迷走神経とは、脳幹の延髄に神経核を持ち、12ある脳神経の一つ、第10脳神経に該当します。
最も大きな神経で、内臓のほとんどと繋がり、一般的にいわれる副交感神経は迷走神経に属しています。
ポージェス 博士は、 従来、副交感神経として分類されていた神経を、延髄の疑核を起点とする腹側迷走神経複合体、延髄の 孤束核 を起点とする背側迷走神経複合体に分けました。
迷走神経だけでなく、他の神経系とも組み合わされているため、「複合体」と呼びます。
つまり、3つの神経系とは具体的には「交感神経」、「腹側迷走神経複合体」、「背側迷走神経複合体」になります。
このうち、「社会神経系」に該当するものは、腹側迷走神経複合体です。
これら3つの神経系が生命の危機が到来したとき、防衛反応として階層的に使われていきます。
脳幹内の神経系統
・腹側迷走神経複合体(社会神経系)・・・最新の神経系 社会友好モード
系統学的には、人間を含む哺乳類だけに発達した最新の神経系です。
横隔膜より上にあり、目、表情、声質、声帯、口、顎、頭、心臓、肺などの働きに関わり、他者との意志疎通、自己鎮静など社会的な繋がりを促す「社会友好モード」に使われます。
危機が訪れても、冷静に行動し、周囲の人間との強力体制をとろうとします。
・交感神経系・・・闘争・逃走モード
交感神経系は、背側迷走神経複合体の次に発達した神経系で、運動や活動しているときに働いていますが、緊急時には「闘争・逃走モード」が働き、牙をむいて闘う、逃げ出す、緊張、興奮、パニック状態、不眠、PTSDの原因になります。
・背側迷走神経複合体・・・最も古い神経系 固まり、麻痺モード
背側迷走神経複合体は、単細胞生物にも存在する最も古い副交感神経です。
横隔膜より下にあり、適度に働いている時には、「リラックス、休息モード」が働き、消化、睡眠、排世、生殖機能、身体の回復など行います。
生命が危険に犯された時、防衛反応として「固まり・麻痺モード」状態を作動し、シャットダウン、失神、うつ病、解離性障害、いつも疲れる、引きこもりといった症状が起こることになります。
私達の生命の危機が訪れたときの反応の順位は、進化の段階の新しい腹側迷走神経複合体から作動し、これで対応できない場合は、交感神経系、さらに対応出来ない場合は背側迷走神経複合体が作動していきます。
例えば、日常生活では、腹側迷走神経系が働き、人との社会的なコミュニケーションを保っています。
しかし、突然、強盗が家の中に入ってきたとします。
最初に、強盗を説得し、話し合いに持ち込もうとする場合は、腹側迷走神経が優位な状態になります。
話し合いで決着がつきそうでない場合は、交感神経系が優位となり、逃げる、闘う、大声で叫ぶ、あるいはパニック状態になるといった防衛反応が働き、それもできないとなると、背側迷走神経系が優位となって身体は硬直し、失神、解離状態になるように働きます。
いずれの神経系の働きも、生き残るために必要な防衛反応として働いているというのが、この理論の考え方になります。
以上のように、うつ病は「防衛反応」の結果起こったもので、身の生命を守るための症状であることがわかります。「うつ病」=「自殺」というイメージがつきまとっていますがそれは間違いで、休息モード状態です。うつ病が自殺に結びつくのは、精神科で処方される向精神薬の影響が大きいからと考えられます。
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